セルバンテス 『ドン・キホーテ』

もう何ヶ月も経つので新鮮な感想は薄れてしまったのですが、セルバンテス作『ドン・キホーテ』(牛島信明岩波文庫 全6巻)を読みました。


さほど期待して読み始めたわけでもなかったんですが、さすが何百年ものあいだ世界的に名作と言われ続けているということは、やはりそれだけ理由があるものです、すごくおもしろかった。
「おもしろい」にもいろんな意味の面白さがあると思います。しかも古典的名作というとまず難しいイメージがしますが、「ドン・キホーテ」は単純におもしろく、想像以上に笑える内容でした。

そうはいっても、主人公ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャは、騎士道物語に取りつかれて現実と妄想の境がつかないものの、騎士道から離れると知的でとても思慮深い人物、共のサンチョ・パンサも愚か者のようで常識的な忠告をドン・キホーテに与えたり、ことわざを豊富に知っていて言葉に織り込む、といった具合に単純な人物設定にはなっていないですし、そのほか、古典や聖書からの引用、当時の歴史や政治的意味合いも含んでいたり、内容はかなり深い小説のようです。

なにがいいって、50歳になる男が共を連れて自由気ままに旅をして、勝手に妄想で作り上げた美しい思い姫、ドゥルシネーア・デル・トボーソをただ一途に思い続ける、その純情と哀愁とユーモア、そこがいい。
それってもしかして共感?


出会いは本当にタイミングで、この「ドン・キホーテ」も、今読んだからそれだけ面白いと思ったのかもしれません。
大人になってから読んだシャーロック・ホームズシリーズや「戦争と平和」と並んで、この「ドン・キホーテ」も自分の一生の友になりそうです、いい本と出会えました。

話は少しそれますが、自分が音楽好きなので、作品に音楽のことが書かれていてうれしかった。
「音楽というものは雑念を取り除き、心にわきあがる苦悩を癒してくれるということを、経験によって学んでいたからです。」 (「ドン・キホーテ牛島信明岩波文庫 前篇(二)p191)
ちなみにシャーロック・ホームズも音楽好きで、ちょくちょくコンサートを聞きに行くし、自らもストラディバリウスを所有するバイオリン弾きです。


ドン・キホーテを読みながら、旅行したスペインの一面緑に広がる大地とそこに見える白い村、そして延々と広がる青い空を思い浮かべました。またスペイン行きたい。